GPLv3改訂のプロセスについて
「GPLv3、オープンソース振興について聞く:「日本政府はさっさとオープンソース振興から手を引いてしまえ」――VA Linux佐渡氏」
(http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0602/08/news036.html)
佐渡さんのインタービュー記事が注目されているようですが、いくつか申し上げておきたいことがあります。
「GPLv3 Conferenceに参加した日本人はg新部さんと八田さんだけ」とありますが、少なくとも4人はいました!(笑
g新部さん、八田さん、Nさん、私です(あと、DebianのMekoの奥さんも会場周辺で見かけたので、5人かもしれません。)
些細なことで、記事の本文には無関係ですが、「関心を持っている日本人は他にもいたんだよ!」というアピールをこめて。
「参加しておきながら情報発信を行わなければ、参加していないのと同じである」と言われれば、正にその通りでありますが(笑
GPLv3改訂のプロセスは民主的か
GPLv3改訂を報じた日本語の記事では、GPLv3の改訂プロセスが紹介されているものを見かけませんでしたので、紹介しておきます。(詳細は、私の甚だ怪しい要約ではなく、GPLv3 Process - March update — GPLv3をご覧ください。)
今回のGPLv3改訂では、2回か3回のドラフトの公開が予定されています。
1st draftは、1月16日に既に公開されていまして、DRM条項が議論の的になっているところです。2006年6月に2nd draftが、2006年10月に(でるとすれば)3rd draftがそれぞれ予定されています。
GPLv3 - Last call draft — GPLv3に、現在のドラフトが公開されていまして、このサイトを通じて誰でもドラフトに対しコメントをつけることができるようになっています。
つけられたコメントは、A〜Dに別れたdiscussion committeeで、整理されFSFのEben Moglenさんにあげられ、最終的な回答が得られるという流れです。
discussion committeeは、大規模Open Source開発グループ(Apache Faundation、FSIJ等)で構成されたCommittee A、OSSにコミットする企業で構成されたCommittee B、公共機関やOSS使用企業など大規模ユーザで構成されたCommittee C、個人開発者などで構成されたCommittee Dに分かれています。
Committeeは、FSFからの招待制で開始され、その後Committeeのメンバーからの紹介があれば参加できる様ですが、基本的には追加されないと思います。
私は、Committee Bに招待されたので、Fedora Project設立者のWarren Togamiさんや、同じ職場で働いているNさんと参加してきまして、現在もcommitteeの一員です。
Committee Bのメンバーは、Red HatやIBM,Intel,Sun,AMDなど、アメリカ企業が中心で、Mysql,Nokiaなど欧州の企業も参加していますが、日本どころかアジアからの参加者は私とNさんの二人だけで、とてもグローバルな意見を集めるcommitteeとは言えない状況です。
また、Committeeには、GPLv3ドラフトへのコメントに対し直接、回答をすることは許されていませんが、議論を設定する(つまり、議論を整理、編集、統合する)ことが求められていますので、それなりに大きな影響力があると思います。
さらに、最終決定権はdiscussion committee内での投票などではなく、あくまでFSFにゆだねられており、Eben MoglenさんとRMSが決めることになります。
つまり、他のOSSライセンス策定のプロセスと比較すれば、よっぽど民主的でしょうが、全世界で広く利用されるであろうライセンスの策定プロセスとして、十分民主的かと聞かれれば、私は疑問符を付けざるを得ません。
私としても、できる限りプロセスには参加、貢献したいと思っていますが、bi-weeklyのteleconfereのスケジュールが、本業の電話会議スケジュールとぶつかっているなど、前途は多難です。
GPLv3に意見があるかたは、メールなどでおしらせください。
LinuxのライセンスがGPLv3に変更されるか?
記事中で佐渡さんは「既にリーナスは先走りしてしまってるようですけど(笑)」と、おっしゃっておいでですが、どんなにGPLv3がすばらしいライセンスであったとしても、LinuxがGPLv3に移行することがないということをLinusが述べているメールがあります(LKML: Linus Torvalds: Re: GPL V3 and Linux - Dead Copyright Holders)。
要するに、Linusとしては、開発者全員にLinuxへの貢献に誇りをもってもらいたいと考えており、GPLv3への移行をきっかけとして、たとえ一部であっても、開発者が、自分の貢献したコードが間違って使われていると感じたり、コードの取り下げを要求したりすることを恐れていると言っているのです。
Linusが、LinuxにGPLv3を適用するのが、是か非かというスレッドの中で、private keyがウンタラカンタラ、DRMがウンタラカンタラと議論するから、まるでDRM条項が、入っているからGPLv3に移行しないと宣言しているという誤解されてしまうのは仕方がないとおもいますが、LinusがGPLv3に移行するつもりが無いのは上のメールを読めば明らかです。それは、GPLv3の出来、不出来に依存しない話です。
ですから、LinusはLinuxがGPLv3に移行することはないという表明を行っただけで、早とちりをしたわけでは無いと思います。
GPLが適用されたOSSのなかで、一番よく利用されており、一番影響範囲が広いのがLinuxでしょうから、そのLinuxがGPLv3に移行しないということは、仮にGPLv3がすばらしいものになった場合、大変に残念なことですはあります。