OSSはベンダにどのようなメリットがあるか?(ベンダがOSSに取り組む、ちょっと消極的な理由)

id:hyoshiokさんが、http://d.hatena.ne.jp/hyoshiok/20060223#p1の中で、

いろいろ考えられるが、わたしの第一次近似は、ユーザがOSSの発展に主体的に関与できる点だと思う。開発コミュニティ、ベンダ、ディストリビュータ、ユーザなどなどOSSを利用するステークホルダは多い。そしてそれぞれの立場の下にOSSに関与しているが、商用ソフトウェアとまったく違うところはユーザがそのソフトウェアに主体的に関与できるかできないかということである。

とおっしゃっています。これは主にユーザ側の立場を代弁されていると思います。
しかし最近では、主にハードウェアベンダ側が積極的にLinuxを中心としたOSS 開発に参加しています。この理由を、私なりに書いてみようと思います。といっても私がよく知っているのはLinuxだけですので、Linuxに限定した話になっちゃいますが。

ハードウェアを売りたい人

現在、Linux開発に非常に積極的に参加しているのは、Red Hat, SuSE(Novell), OSDL, IBM, Intel, HPといったところが中心でしょうか。日本企業では、富士通NECSonyMiracle Linux、VA Linux、日立などの名前をLKML上で見かけます。もちろん、IBM等と比較すればたいしたことありませんが。この中で、Distributerが積極的に参加するのはほとんど自明ですよね。Linuxが良くなってくれれば、一度製品を買ってくれたお客さんが、また、続けてお金を払ってくださるわけですから。
では、IBMIntelを中心としたハードウェアベンダはどうかというと、特にIntelが積極的に参加している理由は明らかで、Intelにとってみればソフトウェアは無料になってくれればありがたいわけです。これは私の推測ではなく、LKMLやXenの開発でも活躍されている、Intel CorporationのNakajimaさんが、私におっしゃったことです。IBMも全ハードウェアラインナップにLinuxをそろえていますが、Linux開発に投資する動機の一つはハードウェアの売り上げにあることは間違いないでしょう。

ハードウェアだけか?

日本のベンダがなぜLinux開発に参加するかと言えば、ハードウェアの売り上げという要素があるにはありますが、それはIntelなどと比べれば、微々たるものでしょう。
では、なぜ参加するか?これを紐解く鍵は日本のベンダのコンピュータ開発の歴史にあります。汎用機全盛の時代、各ベンダはOSレベルでIBM/360と互換性を持ったハードとOSを作ってきました。アプリはIBM/360と同じものが使えるわけです。その後、UNIX系(メインフレーマ用語ではオープン系)システムでは、各社とも独自のUNIX系OSを作ってきました。NEWS(sony)とかEWS-UX(NEC)とかHI-UX(日立)とか。あれ、富士通はSUNのOEMだけでしたっけ?とにかくUNIX系OS百花繚乱です。ところが、このやり方だとアプリが揃わないんですよね。各社ともPOSIXには準拠しているわけですが、ヘッダが微妙に違ったり、機能拡張競争でPOSIXにはないインターフェースをつけまくったりして、同じUNIX系OSといえども、アプリケーションを動かすためには各OSへのポーティングが必要になってしまいました。それでも当初は、フリーのプログラマー雇ってGNUのfree softを移植してもらったり涙ぐましい努力をして自社OSを維持してきたわけです。それも長くは続かなくて、NEWSが消え、DECが消えとやっているうちに、残るはSolaris(SUN), AIX(IBM), HP-UX(HP)になってしまいました。
ところがですね、IBMを筆頭にベンダというのは、ハード&OS屋さんであると同時にSIerでもあるわけです。作ることをやめても、お客さんにサポート付きでハード&OSを提供し続けなければならないため、各社ともSolaris,AIX,HP-UXを提供し続けたわけです。大手SIerがサポート付きで顧客にOSを提供するとなると、OSの守秘義務付きソースコード開示契約を結んだり、場合によっては開発元に人を送り込んだりして、自分のお客さんがふんだバグ取りを手伝ったり、場合によっては必要な機能の追加を手伝ったりしてきました。
そうこうしているうちに、Intel processorの性能が良くなってきて、UNIX系OSのエンジンだったRISC processorと同等の性能が出るようになってきました。価格/性能比で言ったら、Intelの方が断然上ということになります。そこで、俄然注目されたのが、Intel Processor上で動作するUNIX系OSLinuxです。
で、Linuxをお客さんに提供するにあたり、やはり自分のお客さんがふんだバグをつぶしたり、必要な機能を提供したりしなければなりませんので、今までproprietaryなOSに向けてきたエネルギーをLinuxに向け始めたというのが、ベンダがLinuxに取り組む理由じゃないでしょうか?
いくらソースコードが公開されているからといっても、普段開発もしてないのにバグにぶち当たったからといって、いきなりデバッグできるものではないですよ。特に今のLinuxの様な巨大なソースコードになってしまうと、どこに何が書いてあるか、何が原因でおかしな事が起こるか、どうやって解析するか、ちょっとやそっとではわかりません。しかし、不思議なもので一部の機能でも良いから開発に携わっていると、他の部分まで見通しが立つようになってくるんですよね。特にLinuxの場合、開発に携わるとLKMLを結構丁寧に読む必要がありますから、自然に他の部分の情報が入ってくるようになるのが大きいです。